吉川英治三国志 1~3巻 序、桃園の巻、群星の巻、草莽の巻

Nonfiction, History, Asian, China
Cover of the book 吉川英治三国志 1~3巻 序、桃園の巻、群星の巻、草莽の巻 by 吉川英治, Arao Kazufumi
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Author: 吉川英治 ISBN: 1230000198715
Publisher: Arao Kazufumi Publication: October 29, 2013
Imprint: Language: English
Author: 吉川英治
ISBN: 1230000198715
Publisher: Arao Kazufumi
Publication: October 29, 2013
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吉川英治三国志 1~3巻 序、桃園の巻、群星の巻、草莽の巻など1~3巻を掲載いたしました。
●標記1
「shift jis」対応外の文字は原則「image font」を避けUnicode対応フオントとしております。
●標記2
この作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)によってすでに作成されHP等にて既に一般公開されています。内容に関しましては、原著作者の著作上の意図及び著作を出版された出版社。さらに青空文庫等による制作上の意図と原則を尊重し、変換作業等の上は、最小限の改定に留まるように最新の注意を払っております
……………………………………………………

三国志

吉川英治
三国志は、いうまでもなく、今から約千八百年前の古典であるが、三国志の中に活躍している登場人物は、現在でも中国大陸の至る所にそのまま居るような気がする。――中国大陸へ行って、そこの雑多な庶民や要人などに接し、特に親しんでみると、三国志の中に出て来る人物の誰かしらときっと似ている。或いは、共通したものを感じる場合がしばしばある。
だから、現代の中国大陸には、三国志時代の|治乱興亡(ちらんこうぼう)がそのままあるし、作中の人物も、文化や姿こそ変っているが、なお、今日にも生きているといっても過言でない。
三国志には、詩がある。
単に|尨大(ぼうだい)な治乱興亡を記述した戦記軍談の|類(たぐい)でない所に、東洋人の血を大きく|搏(う)つ一種の|諧調(かいちょう)と音楽と色彩とがある。

三国志
桃園の巻
|黄巾賊(こうきんぞく)
一 |後漢(ごかん)の|建寧(けんねい)元年のころ。
今から約千七百八十年ほど前のことである。
一人の旅人があった。
腰に、一剣を|佩(は)いているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、|眉(まゆ)は|秀(ひい)で、|唇(くち)は|紅(あか)く、とりわけ|聡明(そうめい)そうな|眸(ひとみ)や、|豊(ゆた)かな頬をしていて、つねにどこかに微笑をふくみ、総じて|賤(いや)しげな|容子(ようす)がなかった。
年の頃は二十四、五。草むらの中に、ぽつねんと坐って、膝をかかえこんでいた。
|悠久(ゆうきゅう)と水は行く――
微風は|爽(さわ)やかに|鬢(びん)をなでる。
涼秋の八月だ。

三国志
群星の巻
|偽忠狼心(ぎちゅうろうしん)
一|曹操(そうそう)を|搦(から)めよ。
|布令(ふれ)は、州郡諸地方へ飛んだ。
その迅速を競って。
一方――
|洛陽(らくよう)の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも|中牟県(ちゅうぼうけん)(河南省中牟・開封―|鄭州(ていしゅう)の中間)――の附近までかかっていた。
「待てっ」
「馬をおりろ」
関門へかかるや否や、彼は関所の守備兵に引きずりおろされた。
先に中央から、曹操という者を見かけ次第召捕れと、指令があった。そのほうの風采と、容貌とは人相書にはなはだ似ておる」
関の|吏事(やくにん)は、そういって曹操が何と云いのがれようとしても、耳を貸さなかった。

三国志
草莽の巻
|巫女(みこ)
一 「なに、無条件で|和睦(わぼく)せよと。ばかをいい給え」
|郭汜(かくし)は、耳もかさない。
それのみか、不意に、兵に令を下して、|楊彪(ようひょう)について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。
「これは乱暴だ。和議の|媒介(なかだち)に参った朝臣方を、なにゆえあって捕え給うか」楊彪が声を荒くしてとがめると、
   「だまれっ。|李司馬(りしば)のほうでは、天子をさえ捕えて|質(しち)としているではないか。それをもって、彼は強味としているゆえ、此方もまた、群臣を質として召捕っておくのだ」
|傲然(ごうぜん)、郭汜は云い放った。

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吉川英治三国志 1~3巻 序、桃園の巻、群星の巻、草莽の巻など1~3巻を掲載いたしました。
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●標記2
この作品は青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)によってすでに作成されHP等にて既に一般公開されています。内容に関しましては、原著作者の著作上の意図及び著作を出版された出版社。さらに青空文庫等による制作上の意図と原則を尊重し、変換作業等の上は、最小限の改定に留まるように最新の注意を払っております
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三国志

吉川英治
三国志は、いうまでもなく、今から約千八百年前の古典であるが、三国志の中に活躍している登場人物は、現在でも中国大陸の至る所にそのまま居るような気がする。――中国大陸へ行って、そこの雑多な庶民や要人などに接し、特に親しんでみると、三国志の中に出て来る人物の誰かしらときっと似ている。或いは、共通したものを感じる場合がしばしばある。
だから、現代の中国大陸には、三国志時代の|治乱興亡(ちらんこうぼう)がそのままあるし、作中の人物も、文化や姿こそ変っているが、なお、今日にも生きているといっても過言でない。
三国志には、詩がある。
単に|尨大(ぼうだい)な治乱興亡を記述した戦記軍談の|類(たぐい)でない所に、東洋人の血を大きく|搏(う)つ一種の|諧調(かいちょう)と音楽と色彩とがある。

三国志
桃園の巻
|黄巾賊(こうきんぞく)
一 |後漢(ごかん)の|建寧(けんねい)元年のころ。
今から約千七百八十年ほど前のことである。
一人の旅人があった。
腰に、一剣を|佩(は)いているほか、身なりはいたって見すぼらしいが、|眉(まゆ)は|秀(ひい)で、|唇(くち)は|紅(あか)く、とりわけ|聡明(そうめい)そうな|眸(ひとみ)や、|豊(ゆた)かな頬をしていて、つねにどこかに微笑をふくみ、総じて|賤(いや)しげな|容子(ようす)がなかった。
年の頃は二十四、五。草むらの中に、ぽつねんと坐って、膝をかかえこんでいた。
|悠久(ゆうきゅう)と水は行く――
微風は|爽(さわ)やかに|鬢(びん)をなでる。
涼秋の八月だ。

三国志
群星の巻
|偽忠狼心(ぎちゅうろうしん)
一|曹操(そうそう)を|搦(から)めよ。
|布令(ふれ)は、州郡諸地方へ飛んだ。
その迅速を競って。
一方――
|洛陽(らくよう)の都をあとに、黄馬に鞭をつづけ、日夜をわかたず、南へ南へと風の如く逃げてきた曹操は、早くも|中牟県(ちゅうぼうけん)(河南省中牟・開封―|鄭州(ていしゅう)の中間)――の附近までかかっていた。
「待てっ」
「馬をおりろ」
関門へかかるや否や、彼は関所の守備兵に引きずりおろされた。
先に中央から、曹操という者を見かけ次第召捕れと、指令があった。そのほうの風采と、容貌とは人相書にはなはだ似ておる」
関の|吏事(やくにん)は、そういって曹操が何と云いのがれようとしても、耳を貸さなかった。

三国志
草莽の巻
|巫女(みこ)
一 「なに、無条件で|和睦(わぼく)せよと。ばかをいい給え」
|郭汜(かくし)は、耳もかさない。
それのみか、不意に、兵に令を下して、|楊彪(ようひょう)について来た大臣以下宮人など、六十余人の者を一からげに縛ってしまった。
「これは乱暴だ。和議の|媒介(なかだち)に参った朝臣方を、なにゆえあって捕え給うか」楊彪が声を荒くしてとがめると、
   「だまれっ。|李司馬(りしば)のほうでは、天子をさえ捕えて|質(しち)としているではないか。それをもって、彼は強味としているゆえ、此方もまた、群臣を質として召捕っておくのだ」
|傲然(ごうぜん)、郭汜は云い放った。

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